ランニングシューズ

厚底カーボンプレートのシューズによる怪我のリスク

 

厚底カーボンシューズ(スーパーシューズ)とは?

厚底カーボンシューズは軽量で反発性のあるカーボンファイバープレートをミッドソールに組み込んでいて、ランニング時の反発力を高めるなど物理的優位性を生み出し、ランニングのスピードを向上させる効果があります。

ナイキヴェイパーフライ

国際レベルのマラソン大会でもみんなが同じシューズを履いてしまうため、シューズが一色に染まるという光景が広がることもあります。

マラソンなどの長距離レースで記録を狙うためには欠かせない存在となりましたが、厚底カーボンシューズを履いてランニングすることで怪我をする事例が少なからず耳にしますし、シューズには賛否両論あります。

あるアンケート調査では厚底カーボンシューズを履くことで怪我が増えることが報告されています

箱根駅伝を制した青学大の原晋監督は、「今までは下腿部のケガが多かったが、最近は厚底の影響で臀部部回りの故障が増えている」と話す。

読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/hakone-ekiden/news/20220106-OYT1T50243/

しかし、厚底カーボンシューズを履くことによる怪我のメカニズムに関する研究は少ないのが現状であるとも言われています

 

厚底カーボンプレートによるランニングの怪我のリスク

ランニングフォームの変化

厚底カーボンシューズを履いてランニングをすると強い痛みが出てきたという話を耳にすることがあります。

タイムを改善するために相性が悪いシューズを無理矢理にでも履いてしまうために怪我が起きやすくなるという側面が大きいかもしれません。

厚底カーボンシューズといっても様々なシューズがあり、タイムが改善しやすい厚底カーボンシューズは個人差が大きいことが報告されているように、痛みが出やすいシューズにも個人差が大きいと考えられます。

厚底カーボンプレートシューズランニングフォーム

厚底カーボンシューズによる痛みは各個人のシューズとの相性が大きいのですが、これがランニングフォームの乱れが原因かというと微妙なところです。

そもそも怪我をしやすいランニングフォームというものの存在自体が少なく、厚底カーボンシューズを履いたことによるランニングフォームの変化が怪我の原因になる可能性は高くないと考えられます。

これは厚底カーボンシューズを履いた選手のランニングフォームを撮影して分析したところで、怪我をするランナーを予測することは困難であるという意味であり、目に見えないところで影響を及ぼす可能性は少なからずあります。

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使われる筋肉の違い

厚底カーボンシューズを履くことで使われる筋肉が変化し、それが怪我に影響を与えている可能性があります。

ある研究では厚底カーボンプレートが入ったシューズで走ることでふくらはぎの筋肉の働きが減ることが報告されています

このため下腿部への負荷が減り、股関節に負荷がかかりやすくなり、結果として臀部を痛める選手が増えているのかもしれません。

こういったことから厚底カーボンシューズによる怪我を防ぐためには臀筋などの股関節周りの筋肉を強化することが役立つ可能性があります。

ナイキアフファフライランニング

臀部の筋力が強い方が有利に働く可能性はありますが、筋力が強いだけで厚底カーボンシューズをうまく履きこなせるとは限りません。

というのもケニアの国際レベルのランナーでさえも相性の悪い厚底カーボンプシューズを履いてしまうとパフォーマンスが落ちることが報告されています

こういったケニアの選手は日本人選手よりも臀筋が発達していると言われていますが、やはりシューズとの相性による影響は少なからずあるようです。

 

走るスピードの向上

速いスピードで走ることは負荷が大きく、厚底カーボンプレートによってランニングのスピードが速くなることには大きな負荷がかかりやすいという諸刃の剣のような性質があります。

自己ベストを更新するような高性能なシューズであるほどダメージは大きくなる可能性があり、強靭に鍛え上げられたランナーであっても普段慣れていないような負荷がかかってしまうこともあると思います。

マラソンレース

 

怪我のリスクを減らすために

身体に合ったシューズの選択

厚底カーボンプレートでの怪我を減らすためには身体に合ったシューズを選ぶことが大切です。

理論的にシューズを選ぶよりも、主観的に心地よいと感じられるシューズの方が怪我を減らすという研究結果もあるくらいです

お店で履いてみて良い感触であることだけでなく、実際に外を走ってみて心地よい感覚があるか確かめた方がいいでしょう。

やはり厚底カーボンプレートはそれなりのスピードで走った時の働きが重要になってくるかと思います。

厚底カーボンシューズフィッティング

身体に合ったシューズを選ぶというのは本来ならば厚底シューズに限った話ではありませんが、特定のシューズが好記録が出やすいという現状があるため、ついつい身体に合わないシューズを無理矢理履いてしまうことがあります。

冷静に身体に合ったシューズを見極めることが厚底カーボンシューズによる怪我を防ぐポイントになるかと思います。

 

ランニング量の調整

身体に合う厚底カーボンシューズを選ぶことができたとしても、速いスピードで走ること自体に大きな負荷がかかります。

厚底カーボンプレートのシューズを履いた状態でたくさんランニングをすると怪我のリスクが高まるので、シューズの履き分けやスピード練習の量を調整するなど、負荷がかかりすぎないようにすることも怪我予防のポイントになります。

ナイキアルファフライ

 

まとめ

厚底カーボンシューズが登場した当初は身体に悪いシューズであるという印象がありましたが、そのメカニズムを掘り下げてみるとシューズが悪いというよりも、どのように使うのかが問われるのではないかと思います。

というのも相性が悪いシューズを選ぶと怪我をしてしまう、より速いスピードで走ると怪我をしてしまう、これらは厚底カーボンシューズでなくとも変わらないからです。

しかし、特定のシューズに依存せざるを得ないほどタイムに与える影響が大きく、健全な選択ができなくなってしまう可能性があることは否めません。

 

<参考文献>

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  2. Tenforde A, Hoenig T, Saxena A, Hollander K. Bone Stress Injuries in Runners Using Carbon Fiber Plate Footwear. Sports Med. 2023 Aug;53(8):1499-1505. doi: 10.1007/s40279-023-01818-z. Epub 2023 Feb 13. PMID: 36780101; PMCID: PMC10356879.
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