ランニングの怪我の原因として扁平足や足のアーチが崩れてしまっているというのを耳にしたことがあるかと思います。
足のアーチを改善することで良い結果が出るときもあれば、思うように行かない事も多々あり、正解がわからない部分ではないでしょうか。
足のアーチと怪我の関係は少々難解なテーマであり、混乱が起きやすい分野であるとも言えるでしょう。
足のアーチと解剖学
プロネーション
足のアーチが低いとプロネーションが起こりやすくなり、これが怪我につながると考えられています2・3。
足のアーチと怪我の関係に対するシンプルな説明であると思います。
しかし、残念ながら足のアーチの崩れはプロネーションだけで説明ができないことが多くあります。
ランニングフォーム
扁平足のように足のアーチが崩れているとランニングフォームが悪くなり、身体の負担が大きくなると一般的には考えられています。
しかし、足のアーチとランニングフォームについては明確な関連性が見られないことが多いという結論になっています3。
足のアーチが崩れることで起こりうる変化は一定ではありませんし、負担が増えるとは限らないようです。
というのも足のアーチには様々な物理法則が働いており、足のアーチが高い低いだけで語れるほど単純なものではないからです。
足のアーチの物理法則
アーチ構造
アーチ構造によって足部が頑丈になるというもので、いわゆるアーチ構造の橋の強度が高いことに例えられます。
これはアーチにかかる重さと荷重を部分的に水平方向に押す力に変換することにより強度を高めることができます。
インソールなどで足のアーチの高さを上げたところで、水平方向に変換された力を受け止めるものがなければあまり意味がありません。
ウィンドラス機構・剛性
足のアーチで重要な要素が足底筋膜であり、足底筋膜の張力によって足部の剛性が高まり、蹴り出し脚の推進力を生み出します。
(Bolgla et al 2004)
足のアーチにこの仕組みがあることで速く走ることができますし、足部のダメージを和らげることができます。
足のアーチが低いと推進力を生み出すシステムがうまく機能しにくく、さらには足部への負担がかかりやすくなる可能性があります。
トラス構造
足のアーチの機能をトラス構造に例えることがあります。
トラス構造とは三角形の部材で構成することによって、曲げモーメントという負荷が発生しにくくなるというものです。
しかし、この説明にはいくつか微妙な点があります。
まず、アーチが崩れてもトラス構造は維持されます。
なぜならトラス構造とは三角形の部材で構成することであり、アーチの高さとは関係がないからです。
そしてトラス構造のメリットである曲げモーメントを減らすという点ですが、そもそも曲げモーメントによって起こる足部の怪我は少ないことです。
衝撃吸収
足のアーチは衝撃吸収能力にも関係しています。
足のアーチが低すぎても高すぎても衝撃吸収能力が落ちる可能性があります。
というのも適切な足のアーチの高さから外れると、足の柔らかさが失われてクッションとしての役割が働きにくくなってしまいます。
足底圧力
アーチの高さが変わることでランニング時の接地部分が変わります。
これによって足部に負荷がかかる部分が変化し、負荷の分散、あるいは負荷が集中しやすい部分が生まれるなどの変化が起こります。
(Buldt et al 2018)
足のアーチと怪我の関係性
怪我の種類
一般的にアーチが低いランナーは膝の怪我やシンスプリントなどが多い傾向にあり、アーチが高いランナーは疲労骨折や足底筋膜炎など足部の怪我が多い傾向にあるようです4。
アーチが低い場合には膝などのブレにつながりやすく、膝や下腿への負荷が増しやすい傾向にあるのかもしれません。
アーチが高い場合にはランニングの接地時の衝撃が大きくなりやすいために足部を痛めやすいといったところでしょうか。
怪我の発生率
アーチが高い場合には怪我のリスクが1.3倍ほど、足のアーチが低い場合には怪我のリスクが1.2倍ほどであるという結果になっています5。
アーチの崩れは怪我につながる可能性がありますが、致命的に怪我のリスクが上がるというほどのものでもない印象です。
足のアーチの対処方法
アーチサポートの効果
足のアーチの対策としてアーチサポートが使われることがありますが、うまくフィットしていないと効果が落ちる可能性があります。
アーチの高さによって効果が違ってくる可能性がありますし、ランニングフォームによってもアーチサポートの効果が変わってくることがあります。
実際にアーチの高さでシューズを選んでも怪我は減らないという研究結果もあります6。
いずれにしてもインソールなどでアーチを高くすればいい、というほど単純な話ではありません。
テーピング
アーチの高さを変えるだけでは物理的なメリットは少ないのですが、テーピング自体は足部の安定性や剛性を高めるといった他の効果が付随するため、テーピングが効果を発揮することが多いと言えるでしょう。
アーチの高さを変えるという本来の目的が達成されなくとも、テーピングが役立つことは多いと思います。
足の指のトレーニング
足のアーチが崩れている時には足の指を鍛えるエクササイズが役に立ちます。
足の指を鍛えるプログラムを実施することで足のアーチの高さが改善されるという研究報告があります7。
足の指を鍛えても思うように足のアーチが改善されないことが珍しくありません。
というのも足の指の筋力とアーチの高さに強い関連性はなかったという研究結果があります8・9。
しかし、ほんの数ミリの足のアーチの変化でも足部の負荷が減る可能性があり、足の指のエクササイズに取り組む価値は十分にあると思います。
まとめ
この記事を書いてみて足のアーチのメカニズムはやはり複雑であると改めて思いました。
とりあえず結論としてはオーダーメイドのインソール、テーピング、足の指のトレーニングは役に立つことが多いということです。
もちろん足のアーチはそれだけに留まるようなものではなく、足のアーチに対する理解を深めることで、より効果が高くて再現性のある足のケアにつながります。
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