多くの市民ランナーは速く走りすぎているという意見があり、故障しがちなランナーは走るスピードを抑えたスロージョグを取り入れることが役立ちます。
ランニングのダメージを減らす
ランニングで長距離を走ると身体に大きな負荷がかかるわけですが、ランニング時のダメージを減らすことができれば怪我を減らしやすくなります。
よくある方法として、ランニングフォームの改良やシューズの調整、テーピングを使ってランニングをするなどがありますが、いずれも一定の効果はあるのですがランニング時の負荷を減らす絶大な効果があるとまでは言えません。
その中で、スロージョグはランニング時のダメージを減らしやすい方法と言えます。
単純に走るスピードを半分にすれば、ランニング時のダメージを半分近くに減らすことができます。
ランニングフォームの改良などではこんなにダメージを減らすことはできません。
スロージョグのトレーニング効果
有酸素運動能力の向上
ゆっくり走ったからといってトレーニング効果が弱まるわけではなく、スロージョグはランニングの持久力の鍵となるミトコンドリアを効率的に増やすことができます。
ミトコンドリアは脂肪をエネルギーに変える役割があり、ミトコンドリアの量が多い方がマラソンなどにおける持久力が高くなります。
高い強度で鍛えても低い強度で鍛えてもミトコンドリアの増加量に大きな差はなく、ランニングの継続時間がミトコンドリアの量に最も大きな影響があると研究で明らかになっています1。
速いスピードでランニングをしようとも遅いスピードでジョギングをしてもミトコンドリアの増加量は変わらないのであれば、ゆっくりとしたスロージョグの方が怪我のリスクを抑えることができます。
スロージョグを取り入れることで怪我が減り、結果的に練習量を増やすことができ、ランニングの持久力が向上しやすいというわけです。
怪我の耐性の強化
スロージョグの重要なメリットが怪我をしにくくなるという点です。
スロージョグはダメージが少なく走行距離を増やしやすい方法であり、普段の走行距離を増やすことで怪我の耐性を強化することができ、結果として激しい練習をしても怪我をしにくくなります。
実際に普段の走行距離が多いランナーほど怪我をしにくいという研究結果が報告されています2。
私自身の経験でもスロージョグでもコンスタントに走行距離を増やした時の方が遥かに怪我をしにくくなっています。
ゆっくり走っているからそんなに身体は強くならないだろうと思っていたのですが、ゆっくりでも意外と肉体が強くなっているものです。
スロージョグの欠点
心理的に受け入れられない
スロージョグがランニングに役立つということを頭で理解しても、うまくスロージョグを取り入れることは簡単ではありません。
ジョギングを速く走りすぎている、というアドバイスは簡単に受け入れらるものではないと思います。
何よりもプライドが邪魔をしてしまうことは珍しいことではありません。
練習でゆっくりとしたスロージョグで走ると、次々と別のランナーに追い越されていくことになります。
自分よりも遥か高齢のランナーに追い抜かされることもあります。自分の方が速いんだけどな〜とスピードを上げたくなってしまう場面がよくあります。
また、スロージョグはゆっくり走ることになるので、これで本当に速くなるのか?と不安になってしまいます。
こんな軽いランニングでは全然疲れないし、まるで効いていないんじゃないか、もっと速く走った方がいいんじゃないか?と思うこともあると思います。
そして、スロージョグは走る速度がゆっくりすぎてランニングが楽しくないと感じる可能性もあります。
速いスピードで走る爽快感、周りのランナーを追い越す優越感
速く走りすぎているということを自覚したとしても、簡単にやめられるものではありません。
走行距離を伸ばすのに時間がかかる
スロージョグはゆっくり走るため走行距離を稼ぎにくいという欠点があります。
走行距離にこだわりがある人は注意が必要で、スロージョグの怪我予防効果を台無しにしてしまう可能性があります。
例えば毎日10km走ると決めている場合などです。スロージョグでゆっくり走ったとしても、走行距離が同じならばダメージの蓄積を減らす効果は少なくなります。
スロージョグで怪我を減らしたいならば、練習時間で管理することが大事です。
例えば10kmを50分でジョグしていたのならば、8kmをスロージョグで50分というように。
この場合走るスピードが2割減っているので、ランニングのダメージを2割近く減らせる可能性があります。
そして、スロージョグに身体が適応して怪我をしなくなってきてから、走る時間を増やして走行距離を少しずつ稼いでいくことがポイントになります。
スピード練習にならない
スロージョグの生理学的なデメリットについてですが、スロージョグだけの練習でマラソンを速く走れるわけではなく、適度にスピード練習やロング走などのポイント練習を取り入れる必要があります。
私の場合にはスロージョグで走行距離を増やしてもランニングのタイムは速くなりませんでした。
が、スロージョグを増やしたことで運動中の心拍数は大幅に下がり、キツい練習をやっても疲れにくくなりました。
あくまでスロージョグは有酸素運動能力の土台の強化にあるのではないかと思います。
スロージョグの取り入れ方
練習メニューの組み立て方
有名な方法として練習の8割をゆっくりとしたジョグにして、残りの2割をスピード練習などのポイント練習にするというものがります。
実際に世界トップクラスのマラソンランナーは練習の8割以上が最大心拍数の60-70%程度のジョグであるという論文があります3。マラソンだけでなく中距離選手もこのような傾向にあるそうです。
練習の多くをゆっくりとしたジョグにすることで怪我のリスクを抑えながら継続的に練習ができるようになるわけです。
故障しがちなランナーであれば、ポイント練習の強度や量を調整するということは大切です。
例えば川内優輝選手は高校時代に怪我に悩んでいたそうですが、大学に入ってからは週2回のポイント練習とそれ以外はゆっくりとしたジョグで故障が減ったという話があります。
しかも、ポイント練習の強度も抑え気味で物足りないくらいの強度だったそうです。
走るスピード
スロージョグは一体どのくらいのスピードで走ったらいいのでしょうか?
世界トップクラスのマラソンランナーが最大心拍数の60-70%程度のジョグを取り入れていることから、これがひとつの目安になると思います。
世界トップクラスのランナーのジョグは3:50 - 4:30/kmペースなど、一般的な市民ランナーからすると随分速いペースになります。
サブ3で走れるようなランナーでも最大心拍数の60-70%程度で走るとなると6:00/kmになることがあります。
多くのランナーはそれよりも遅いペースになることでしょう。
ジョグのペースを決める際には、ダニエルズのランニングフォーミュラを参考にしている人も多いかと思います。
ダニエルズのイージーペースは最大心拍数の70%を超えやすく、イージーペースと言いながらそれなりに速いペースでのジョグになっています。
いくつかスロージョグの指標はあるものの、結局のところどのくらい走るスピードを遅くするかは怪我の耐性やオーバートレーニングへの耐性次第だと思います。
耐性が弱く怪我を繰り返してしまうようであれば、走るスピードを遅くした方が怪我のリスクを抑えることができます。
速く走っても怪我もオーバートレーニングもないのであれば、普段から速いスピードでジョグをしても何ら問題はないと思います。
まとめ
怪我の心配がないのであれば速いペースでのジョグに問題はないと思いますが、ランニングで故障が続くようならばスロージョグを試してみる価値があると思います。
ランニングの怪我を克服するためには、自分の限界を冷静に受け止め、その限界を超えないように調整することがとても大事だと思います。
<参考文献>
- MacInnis MJ, Gibala MJ. Physiological adaptations to interval training and the role of exercise intensity. J Physiol. 2017 May 1;595(9):2915-2930. doi: 10.1113/JP273196. Epub 2016 Dec 7. PMID: 27748956; PMCID: PMC5407969.
- van Poppel D, van der Worp M, Slabbekoorn A, van den Heuvel SSP, van Middelkoop M, Koes BW, Verhagen AP, Scholten-Peeters GGM. Risk factors for overuse injuries in short- and long-distance running: A systematic review. J Sport Health Sci. 2021 Jan;10(1):14-28. doi: 10.1016/j.jshs.2020.06.006. Epub 2020 Jun 12. PMID: 32535271; PMCID: PMC7856562.
- Haugen T, Sandbakk Ø, Seiler S, Tønnessen E. The Training Characteristics of World-Class Distance Runners: An Integration of Scientific Literature and Results-Proven Practice. Sports Med Open. 2022 Apr 1;8(1):46. doi: 10.1186/s40798-022-00438-7. PMID: 35362850; PMCID: PMC8975965.