暑熱順化とは?
暑熱順化はランナーが暑い環境に適応するための重要なプロセスであり、暑熱順化を行うことで体温調節機能が向上し、熱中症のリスクを減らすことができます。
地球温暖化の影響もあり、近年では夏場の気温がどんどん高くなってきているので暑熱順化の重要性が高まってきています。
重要な大会は夏場に開催されることも珍しくなく、暑い環境下で走れる能力も重要になってきているかと思います。
暑熱順化の効果
暑さへの耐性の獲得
暑い環境下でランニングをすることで徐々に暑さへの耐性を獲得することができます。
一般的に深部体温が40℃を超えると熱中症のリスクが高まるのですが、持久力の高いランナーほど暑さへの耐性が強く、競技ランナーは深部体温が40℃を超えて走ることも珍しくありません1。
有酸素運動能力の向上
猛暑でのランニングによって心肺機能などに負荷がかかることで、血中のヘモグロビンや血漿を増加させる効果があります2・3。
心臓の機能が強化され1回あたりの拍出量が増え、心拍数も低くなることが報告されています4。
さらに乳酸性閾値や最大酸素摂取量(VO2Max)を改善させる効果も報告されています5。
レースへの効果
猛暑でのランニングに取り組むことで、暑い環境下でのタイムトライアルが速くなる効果があります6。
しかし、猛暑でのランニングで有酸素運動能力が向上しても、通常の温度でのタイムトライアルのタイムが改善しなかったという報告も珍しくありません6。
有酸素運動能力が向上したとしても、それをスピードに変換しなければ常温でのタイムトライアルのパフォーマンス向上につながりにくいかと思います。
猛暑が終わり、涼しくなってきた頃にスピード練習を取り入れるとタイムが大幅に伸びやすいというのもこういったことが背景にあるかもしれません。
ヒートトレーニング
ヒートトレーニングの方法
ヒートトレーニングを行う場合には高温の環境下で40分から70分ほどランニングをすることが推奨されています7。
より高い気温でランニングを実施すればいいかというと微妙なところであり、高い効果が得られないことも多いようです8。
深部体温を一定以上に保ち続けることがポイントであるため、暑さやトレーニング強度、トレーニング時間などによって効果が左右されます。
暑い環境下でのランニングは熱中症のリスクがあるので、水分やミネラルを補給しながら行い、熱中症の症状がみられる場合にはトレーニングを中止することが大切です。
暑い環境下でのランニングの他にも暑いお風呂やサウナで暑さに慣らすという方法もあり、こちらもランニングのパフォーマンスを高めることが報告されています6。
効果がある期間
暑熱順化は暑さへの耐性の獲得とランニングのパフォーマンス向上の効果がありますが、ヒートトレーニングの効果はずっと続くものではありません。
残念ながら暑熱順化は2週間ほどで頭打ちになり、それ以上は暑さへ適応することができないことが報告されています9。
暑い環境下でのトレーニングを1ヶ月続けてもより大きな効果は得られないことが報告されています9。
(Périard et al 2015)
一度暑さへの耐性を獲得しても、暑さに触れていないと暑さへの耐性が失われていきます。
一般的に1日で獲得できる暑さへの耐性は数日で失われると言われているため、暑さへの耐性を維持するためには数日に1回くらいのペースでヒートトレーニングを行うとよいと言われています10。
夏場のランニングについて
暑熱順化による効果は上限があるので、結局のところは地道にランニングを続けて有酸素運動能力を獲得することポイントになるかと思います。
猛暑では高強度のインターバル走が難しくなるので、夏場は地道に距離を稼いでいくことがパフォーマンスを高めるのに役立ちます。
夏場に高強度トレーニングを行う場合には距離を短くしてレストの時間を長くする、できるだけ涼しい時間帯に行う、直射日光が当たらない場所で行う、冷たいドリンクやアイスなどで体温を下げるなどの工夫が役立ちます。
結局のところ夏場は避暑地での合宿を行うことがトレーニング効果が高く、実業団や強豪チームなどのように避暑地に行くというのが理想なのかもしれません。
もちろん、夏場に重要なレースが控えている場合には暑さに慣らしておくことが必要になるかと思います。
まとめ
猛暑でのランニングは体温調節能力を高めて熱中症のリスクを抑えるだけでなく、血中のヘモグロビンや血漿が増加し、乳酸性閾値や最大酸素摂取量(VO2Max)を改善させる効果もあります。
しかし、暑熱順化によるトレーニング効果には上限があるため、結局のところ地道なトレーニングの継続が重要になるかと思います。
<参考文献>
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