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坂道ダッシュの効果と怪我のリスク

2024年7月17日

 

坂道ダッシュ(ヒルスプリント)とは?

坂道ダッシュは走力を高めるためのトレーニングの一つで、坂道を早い速度で駆け上がることで全身の筋肉やスタミナを強化する効果があります。

坂道ダッシュ

中長距離ランナーはインターバル走を取り入れる準備段階で取り入れたり、筋力強化や起伏のあるコースへの対策の一環として坂道ダッシュを取り入ることがあります。

短距離選手においてもスプリント力向上のトレーニングの一環として坂道ダッシュは多く取り入れられていて、平地でのスプリント練習だけよりも坂道ダッシュを組み合わせた方がスプリント力向上に効果があることが報告されています

 

坂道ダッシュの効果

上り坂

坂道ダッシュは5kmのタイムトライアルのパフォーマンスを改善することが報告されています

しかし、上り坂が急な勾配であるほど効果が高いわけではなく、キツい坂道であるほど良いトレーニングというわけではないようです。

筋力強化には急勾配での坂道ダッシュが効果的ですが、最大酸素摂取量や乳酸処理能力を鍛える場合などは少し緩い坂道で走った方が効果的だったりします

上り坂ランニング

そして上り坂でのインターバルトレーニングはランニングのパフォーマンス向上に役立つけれども、上り坂よりも平地のインターバルの方が効果が高かったとする報告もあります

あくまで上り坂ダッシュは筋力などの基礎能力を高めるためのトレーニングという役割が強く、平地でのランニングパフォーマンスを高めるためには平地でのスピード練習など、本番のレースに近い環境で仕上げることが大切になるかと思います。

 

しかし、基礎能力がないとレースに特化した練習の質が落ちてしまうので、長期的には基礎能力を高めることがとても大切になります。

 

下り坂

下り坂ダッシュがランニングのパフォーマンスを高めるという論文はほとんど見受けられませんでした。

しかしながら、アップダウンが激しいレースでは下り坂でのランニングのパフォーマンスが大会などでの成績に影響を及ぼす状況も考えられるかと思います。

下り坂では普段と違う刺激が入るため、下り坂のランニングを繰り返すことで身体を適応させておくことは役立つ可能性があります。

下り坂ランニング

 

 

坂道ダッシュの怪我のリスク

上り坂

上り坂は着地衝撃が小さいため怪我をしにくいと言われることがあります。

しかし、平地よりも安全に走れるかというと微妙なところで、上り坂ダッシュでも怪我のリスクがあります。

上り坂ダッシュ

というのも上り坂ダッシュでは筋肉の働きが増えることが報告されており5・6、この筋力発揮によって負荷が小さいとは言えないのです。

一般的には地面への着地衝撃よりも筋力発揮によって生み出される負荷の方がダメージが大きいと言われているため、上り坂ダッシュはそこまで安全なトレーニングとは言えないと思います。

上り坂ダッシュは危険なトレーニングというわけではありませんが、上り坂だから怪我しにくいと油断するのではなく平地と同じくらいの注意で考えるいいかと思います。

 

下り坂

下り坂は最大スピードが速くなること、着地衝撃が大きくなること、筋力発揮も大きいことから怪我のリスクが高いと言えます。

ランナーの坂道ダッシュの練習といえば基本的には上り坂の練習であり、下り坂での繰り返しのダッシュは怪我のリスクが高いため取り入れられることは多くありません。

下り坂ダッシュ

 

坂道に強いランナーの特徴

上り坂

上り坂が強いランナーは山の神などと呼ばれることがあります。

そして、上り坂に強いランナーの特徴は最大筋力が強いこと、最大酸素摂取量(VO2MAX)が高いこと、体重が軽いことであることが報告されています

上り坂では平地以上に体重の軽さが推進力に関係しているわけで、痩せている選手はクライマー体質であると言えます。

上り坂マラソン

 

下り坂

下り坂に強いランナーの特徴は、最大筋力が強いこと、最大酸素摂取量(VO2MAX)が高いこと、身体が硬いことであることが報告されています

身体が硬いことが下り坂で有利に働くことが意外かもしれませんが、身体が硬いとエネルギーが逃げにくくなります。

陸上競技の短距離選手が速く走るために接地時に身体を固める練習をしているのもこのためで、長距離ランナーも下り坂で加速したエネルギーを逃さないことで速いスピードで走りやすくなるわけです。

下り坂マラソン

 

まとめ

坂道ダッシュによってスプリント能力や最大酸素摂取量(VO2Max)、タイムトライアルのパフォーマンスが向上する可能性があります。

上り坂ダッシュは着地衝撃は小さくなりますが、筋力発揮は大きくなるため怪我のリスクが少ないとは言い難いと思います。

 

<参考文献>

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