ボディメンテナンス

ストレッチでランニングの怪我を減らせるのか?

2023年10月20日

ランニングでの怪我を減らすためにストレッチを頑張ることは珍しいことではありません。しかし、本当にストレッチに怪我を減らす効果があるのでしょうか?

 

ストレッチとランニングのパフォーマンス

ストレッチ直後のランニングのタイム

じっくりと時間をかけて筋肉を伸ばす、いわゆる静的ストレッチでは直後にマラソンのパフォーマンスが落ちる可能性があることが指摘されています

走るの前のウォームアップとしてダイナミックストレッチを取り入れるとパフォーマンスを落とさずに走ることができると言われていますが、マラソンのタイムを向上させる効果があるという強い科学的根拠は確認されていないようです2・3ランニング

ウォームアップで重要なのは柔軟性をアップさせることだけではなく、身体を温めることや心理的な準備をするなどの意義があります。

必ずしもストレッチを多く取り入れる必要はありませんが、ウォームアップ自体はランニングに重要なものです。

 

 

ストレッチの習慣とマラソンのタイム

ある研究でストレッチを10週間続けた効果を調べたところ、マラソンのタイムは改善しなかったことが報告されています

柔軟性が高いほど速く走れるというわけではなく、そもそも柔軟性が低い方がランニングエコノミーが良いという研究結果が数多く報告されています5・6

ランナーストレッチ

身体の硬さは速く走るために重要な要素であり、身体の硬さがバネのような役割を果たしていると言われています。

このためストレッチを続けて身体を柔らかくしていったところで、マラソンのタイムを改善する効果は限られているわけです。

 

ランニングフォームの改善について

ストレッチを取り入れることでランニングフォームを改善してマラソンのタイムを改善できる可能性はあります。

例えば肩の前部のストレッチなどはランニングフォーム変化を感じやすく、楽に走りやすくなることが多いかと思います。とはいえランニングフォームの改善というのは簡単なものではありません。

ランニングフォームの改善効果を調べた研究はたくさん存在するのですが、その多くがマラソンのタイムの向上がみられなかったという結果になっています

ランニングフォーム
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残念ながらランニングフォームを改善してタイムを伸ばすのは再現性が低い方法であると思います。

あくまで再現性が低いだけであって、ストレッチによって走りやすくなるという経験は起こり得ます。

 

筋肉痛

ストレッチの効果のひとつに筋肉痛を減らすというものがあります。

ストレッチの筋肉痛に対する効果を調べた研究結果によると、マラソン後のストレッチが筋肉痛を減らす可能性はあると言えるかと思います

 

怪我予防のためのストレッチ

ストレッチの習慣と怪我予防

ストレッチの効果のひとつに怪我を減らすというものがあり、様々なスポーツでストレッチが怪我予防の一環として取り入れられています。

実際に多くのストレッチを取り入れることで怪我が減るという研究結果が多く確認されていて、ストレッチを取り入れることは大事なことであると言われています。

ランニングストレッチ
しかし、マラソンにおいてはストレッチが怪我を防ぐというのは科学的根拠がないことが報告されています

マラソンの怪我というのはストレッチを続けるだけで簡単に防ぐことはできませんし、走りすぎてしまったダメージをストレッチで帳消しにすることはできません。

ストレッチをしてもマラソンで蓄積されていくダメージに対して、ほんのわずかな違いしか生まれないと考えた方が良いでしょう。

 

ランナー膝の改善効果

ランナー膝など痛みを抱えている人は身体が硬い人が多く、ストレッチには痛みの改善効果があると思うかもしれません。

膝の痛み

しかし、実際にランナー膝に対してストレッチを行なった研究ではストレッチに高い効果はみられなかったことが報告されています10

この研究結果をもってストレッチがランナー膝の改善に全く役に立たないと言いたいわけではなく、マラソンランナーは闇雲に柔軟性を高めればいいわけではないということです。

ストレッチを行うことで一時的にランナー膝の痛みが軽減されるという経験があるかもしれませんが、ストレッチによって痛みの感じ方が変わるだけで怪我の回復が促進されるわけではありません。

 

身体のバランスの歪み

マラソンを続けていると徐々に身体のバランスが歪んでいきます。これに対してストレッチは有効な方法であると思います。

しかし、身体のバランスを整えるストレッチというのは専門知識や技術が必要になってくる場合があり、ルーティーンで行っているストレッチが必ずしも身体のバランスを整えるとは限りません。

むしろ、同じストレッチしかしていないという場合には極端に柔らかい部位と、そうでない部位の差が大きくなってしまう可能性も考えられます。

ストレッチで高い効果を生み出すためには、身体の状態を見極めた上でストレッチすることが大切になってきます。

 

まとめ

一般的にストレッチはスポーツにプラスの効果が働くことが多いのですが、マラソンに関してはストレッチにそこまで高い効果がないという研究結果が多くあります。

歪んだバランスを整えるためのストレッチなど明確な目的があるならともかく、なんとなく身体に良さそうだからストレッチをするだけでは思うような効果が得られない可能性があります。

 

<参考文献>

  1. Baxter C, Mc Naughton LR, Sparks A, Norton L, Bentley D. Impact of stretching on the performance and injury risk of long-distance runners. Res Sports Med. 2017 Jan-Mar;25(1):78-90. doi: 10.1080/15438627.2016.1258640. Epub 2016 Dec 2. PMID: 27912252.

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  10. McKay J, Maffulli N, Aicale R, Taunton J. Iliotibial band syndrome rehabilitation in female runners: a pilot randomized study. J Orthop Surg Res. 2020 May 24;15(1):188. doi: 10.1186/s13018-020-01713-7. PMID: 32448384; PMCID: PMC7247177.

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