ボディメンテナンス

マッサージはマラソン後のリカバリーに役立つのか?

2023年10月6日

マッサージ

長時間のマラソンの後のマッサージは気持ちいいもので、マラソン後のリカバリー方法として有益なものであるというのが多くの人の認識ではないかと思います。

しかし、なぜマッサージが効果を発揮するのか?そのメカニズムについては意外と知られていない部分も多いのではないかと思います。

 

マラソン後のマッサージの効果

心理的効果

マラソン後のマッサージは主観的な疲労を軽減させることが知られています

マッサージは多くの場合は気持ち良いもので、心をリラックスさせ、ポジティブな心理状態に導くという効果があります。

負荷の高い練習が続いている時などは走る気力も削られてしまうことがありますが、マッサージによって練習へのやる気が高まるかもしれません。

マッサージ

 

筋肉痛

マッサージにはマラソン後の筋肉痛を減らす効果があるという研究結果が報告されています

長い距離を走った後や、激しい練習をした後は筋肉痛が起こりやすいため、マッサージでケアしてあげると筋肉痛を軽減することができます。

 

痛みの軽減

マラソンは身体を酷使するスポーツであり、ランニングの痛みのケアとしてマッサージを取り入れることもあるかと思います。

しかし、残念ながらマッサージにはマラソンの痛みや炎症などを減らす効果がないことが研究で明らかになっています。そしてランナー膝などのランニング障害の回復を早めるという科学的根拠が弱いことも指摘されています

マッサージ
ここは施術者の腕によって影響されることが多いため一概には言えない部分もありますが、マラソンによる痛みを取るためにマッサージを取り入れても、あまり役に立たないことも意外と多いのではないかと思います。

 

血流の増加

マッサージをすれば血液が循環され、身体に栄養が行き渡ってリカバリーに役立つはずだと考えている人も多いかもしれませんが、

残念ながらマッサージによって新陳代謝が促されて、身体の修復が早めることは難しいものがあります。

そもそもトレーニング後にマッサージをしても、動脈や静脈などの血流量に大きな変化はないという研究結果が数多く報告されています5・6

血流

一方でマッサージによって皮膚の表面の血流は変わることが報告されており、これがマッサージを受けて血の巡りが良くなったと感じるのは局所的なものなのかもしれません。

マッサージ後の血液中の栄養成分を調べた研究では、マッサージは血液中の栄養成分を増やす効果がみられなかったことが報告されていますし

他にもマラソン後にマッサージをすると乳酸除去が阻害されるという研究結果もあるくらいです

 

ランニングエコノミー

マラソンランナーが走力を表す指標としてランニングエコノミーが用いられることがあり、一定速度で走ったときに少ない酸素摂取量で走れることが効率的なランニングであると考えられています。
長距離を走った後にリカバリーとしてマッサージを取り入れたところ、ランニングエコノミーが回復しやすいという研究結果があります10

ランニング

しかし、このような結果を報告している論文は現時点ではひとつしか確認されておらず、再現性には疑問が残るところです。そして、意外に柔軟性が低い長距離ランナーのほうがランニングエコノミーが良いという研究結果が数多く報告されています11・12

このことからマッサージで必要以上にほぐし、過度に柔らかい状態になってしまうとマラソンの走りが遅くなること可能性があることに注意が必要です。

 

身体のバランス

マラソン後のマッサージは全く不要というものではなく、適度なマッサージはランニング障害を防ぐために役立つ可能性はあります。

マラソンは身体に大きなダメージを与え、マラソン後には身体のバランスが乱れやすく、足のアライメントが変形するという研究結果も報告されています13

足部のアライメント

マラソン後のリカバリーとしてマッサージを行うことで、乱れた身体のバランスを整えやすくなります。

とはいえ毎回マッサージする必要があるというほどのものではなく、間隔をおいて定期的にマッサージをするくらいでも大丈夫かと思います。

 

睡眠の質

マッサージの効果で忘れてはいけないのが、マッサージは睡眠の質を改善してくれることです。

睡眠

数多くの研究でマッサージには睡眠の質を高める効果があるということが報告されています14。睡眠の質を良くすることで全身の新陳代謝が促され、リカバリーの効果を高めることが期待できます。

普段からぐっすり眠れていない人こそマッサージを試してみる価値があるかもしれません。

 

マラソンのリカバリーへの取り入れ方

マラソン後のリカバリーとしてのマッサージを取り入れても、明確な違いを感じられない人も多いかもしれません。

マッサージは身体に良いものだと広く認識されていますが、その科学的根拠をひとつひとつ調べていくと万能なものではないということが明らかになっています。

しかし、マラソン後のマッサージが無駄なものかというと、そうではないと思います。

 

なんとなく身体に良さそうだからという理由でマッサージをするのではなく、明確な意図をもって取り入れることが重要だと思います。

特に1秒を争う高いレベルのアスリートほど、その恩恵は大きくなってくると思います。

こういった地道なことの積み重ねが大会での成績につながるのかもしれません。

 

まとめ

マラソン後のリカバリーとしてのマッサージには、筋肉痛を軽減する効果、身体のバランスを整える効果、睡眠の質を高める効果などがありますが、

一方でマッサージを取り入れても、血流の増加、痛みの回復を早める効果、ランニングエコノミーの改善といった効果には限界があります。

 

<参考文献>

  1. Wiewelhove T, Schneider C, Döweling A, Hanakam F, Rasche C, Meyer T, Kellmann M, Pfeiffer M, Ferrauti A. Effects of different recovery strategies following a half-marathon on fatigue markers in recreational runners. PLoS One. 2018 Nov 9;13(11):e0207313. doi: 10.1371/journal.pone.0207313. PMID: 30412626; PMCID: PMC6226207.

  2. Dupuy O, Douzi W, Theurot D, Bosquet L, Dugué B. An Evidence-Based Approach for Choosing Post-exercise Recovery Techniques to Reduce Markers of Muscle Damage, Soreness, Fatigue, and Inflammation: A Systematic Review With Meta-Analysis. Front Physiol. 2018 Apr 26;9:403. doi: 10.3389/fphys.2018.00403. PMID: 29755363; PMCID: PMC5932411.

  3. Dawson LG, Dawson KA, Tiidus PM. Evaluating the influence of massage on leg strength, swelling, and pain following a half-marathon. J Sports Sci Med. 2004 Nov 1;3(YISI 1):37-43. PMID: 24778552; PMCID: PMC3990931.

  4. Weerapong P, Hume PA, Kolt GS. The mechanisms of massage and effects on performance, muscle recovery and injury prevention. Sports Med. 2005;35(3):235-56. doi: 10.2165/00007256-200535030-00004. PMID: 15730338.

  5. Tiidus PM, Shoemaker JK. Effleurage massage, muscle blood flow and long-term post-exercise strength recovery. Int J Sports Med. 1995 Oct;16(7):478-83. doi: 10.1055/s-2007-973041. PMID: 8550258.

  6. Hinds T, McEwan I, Perkes J, Dawson E, Ball D, George K. Effects of massage on limb and skin blood flow after quadriceps exercise. Med Sci Sports Exerc. 2004 Aug;36(8):1308-13. doi: 10.1249/01.mss.0000135789.47716.db. PMID: 15292737.

  7. Moraska AF, Hickner RC, Rzasa-Lynn R, Shah JP, Hebert JR, Kohrt WM. Increase in Lactate Without Change in Nutritive Blood Flow or Glucose at Active Trigger Points Following Massage: A Randomized Clinical Trial. Arch Phys Med Rehabil. 2018 Nov;99(11):2151-2159. doi: 10.1016/j.apmr.2018.06.030. Epub 2018 Aug 6. PMID: 30092205.

  8. Wiltshire EV, Poitras V, Pak M, Hong T, Rayner J, Tschakovsky ME. Massage impairs postexercise muscle blood flow and "lactic acid" removal. Med Sci Sports Exerc. 2010 Jun;42(6):1062-71. doi: 10.1249/MSS.0b013e3181c9214f. PMID: 19997015.

  9. Miyaji A, Sugimori K, Hayashi N. Short- and long-term effects of using a facial massage roller on facial skin blood flow and vascular reactivity. Complement Ther Med. 2018 Dec;41:271-276. doi: 10.1016/j.ctim.2018.09.009. Epub 2018 Sep 14. PMID: 30477852.

  10. Duñabeitia I, Arrieta H, Rodriguez-Larrad A, Gil J, Esain I, Gil SM, Irazusta J, Bidaurrazaga-Letona I. Effects of Massage and Cold Water Immersion After an Exhaustive Run on Running Economy and Biomechanics: A Randomized Controlled Trial. J Strength Cond Res. 2022 Jan 1;36(1):149-155. doi: 10.1519/JSC.0000000000003395. PMID: 31800477.

  11. Jones AM. Running economy is negatively related to sit-and-reach test performance in international-standard distance runners. Int J Sports Med. 2002 Jan;23(1):40-3. doi: 10.1055/s-2002-19271. PMID: 11774065.

  12. Trehearn TL, Buresh RJ. Sit-and-reach flexibility and running economy of men and women collegiate distance runners. J Strength Cond Res. 2009 Jan;23(1):158-62. doi: 10.1519/JSC.0b013e31818eaf49. PMID: 19050648.

  13. Fukano M, Inami T, Nakagawa K, Narita T, Iso S. Foot posture alteration and recovery following a full marathon run. Eur J Sport Sci. 2018 Nov;18(10):1338-1345. doi: 10.1080/17461391.2018.1499134. Epub 2018 Jul 23. PMID: 30035682.

  14. Hsu WC, Guo SE, Chang CH. Back massage intervention for improving health and sleep quality among intensive care unit patients. Nurs Crit Care. 2019 Sep;24(5):313-319. doi: 10.1111/nicc.12428. Epub 2019 Apr 3. PMID: 30942526.

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